「私の出っ歯は、マウスピース矯正じゃ治せない?」
このような疑問や不安はありませんか?
目立たないことから人気のマウスピース矯正ですが、実は誰でも受けられるわけではありません。
骨格にズレがあったり、抜歯が必要なほど歯並びが乱れていたりすると、「適応外」と判断されることがあります。
そこで本記事では、マウスピース矯正が「できない」と言われやすい症例の特徴を解説。さらに、ワイヤー矯正との組み合わせ治療など、「できない」を「できる」に変えるための対処法までご紹介します。
マウスピース矯正が「できない」と言われる症例

まず、どのような歯並びが一般的に「マウスピース矯正では対応が難しい」と判断されやすいのか、その理由と共に見ていきましょう。ここでご紹介するのは、あくまで一般的な傾向です。ご自身の歯並びが当てはまるように感じても、最終的な治療方針は、精密検査の結果によってはじめて導き出されます。
ケース1:骨格そのものにズレがある(重度の出っ歯・受け口)
上顎や下顎の骨の大きさ・位置関係そのものが大きくズレている状態です。口を閉じても唇が突出してしまう、下顎がしゃくれているなど、横顔のバランスに影響が出ている場合がこれにあたります。
マウスピース矯正は、あくまで歯を動かすためのツールです。骨格という土台に問題がある場合、歯を動かすだけでは根本解決に至らず、顎の骨を切るなどの外科手術を併用した矯正が必要となります。
ケース2:抜歯が必要なほど歯がデコボコ(重度の叢生)
歯列に歯が入りきらず、歯並びがガタガタしている状態は抜歯が必要になることが多いです。
抜歯で生まれた広いスペースに、奥の歯を根っこごと平行に動かす(歯体移動)のは、マウスピース矯正が最も苦手とする動きの一つ。無理に動かそうとすると、歯が目標地点に届く前に倒れ込んでしまい、噛み合わせが崩れるリスクがあります。
ケース3:奥歯で噛んでも前歯が閉じない(重度の開咬)
奥歯はしっかり噛み合っていても、前歯の間に隙間ができてしまう状態です。食べ物を前歯で噛み切れず、発音にも影響が出ることがあります。
開咬の原因は、過去の指しゃぶりの癖だけでなく、舌の無意識の動きや骨格の形状が絡み合っていることが多く、原因の特定自体が困難です。
さらに、歯を歯ぐきから引き出す(挺出)という動きが求められるため、マウスピース矯正では極めて難易度の高い症例とされています。
ケース4:歯が大きくねじれている・歯の中心がズレている
歯が真横を向くほど回転している「捻転歯」や、上下の歯列の真ん中のラインが大きくズレている状態です。
マウスピースは歯をすっぽりと覆って力を加えるため、歯全体を面で押すのは得意ですが、歯を回転させる力は働きは苦手です。特に、円筒形に近い犬歯などを正確にコントロールするのは至難の業とされています。
ケース5:重度の歯周病や動かせない歯が多数ある
歯を支える骨が歯周病で弱っている状態や、骨と一体化しているインプラントが多数ある場合です。
矯正治療は、骨の再生能力を利用して歯を動かす治療です。特に歯周病が進行した状態で力をかければ、歯が抜け落ちる危険性があります。まずは歯周病治療で地盤を固めることが最優先となります。
マウスピース矯正はできない?自分でできる適応チェックリスト

ここまで読んで、「じゃあ、実際のところ私の歯並びはどうなんだろう?」と気になっている方も多いのではないでしょうか。ここでは、マウスピース矯正の適応かどうかを自分である程度判断するためのチェックポイントをご紹介します。ただし、最終的な判断は必ず歯科医師による診察が必要です。
症状の重症度をチェック
歯並びの乱れの程度は、一般的に「軽度」「中度」「重度」に分けられます。マウスピース矯正は、主に軽度〜中度の症例を得意としています。
| 軽度 | 中度 | 重度 | |
|---|---|---|---|
| 叢生(デコボコ) | ・歯が少しだけ前後にズレている・八重歯がわずかに飛び出している | ・特定の歯が明らかに重なっている・歯ブラシが届きにくい箇所がある | ・歯が重なって隠れ、見えない部分がある・歯列が全体的に大きく波打っている |
| すきっ歯 | ・前歯の間に爪楊枝1本分程度の隙間 | ・複数の歯の間に隙間が目立つ | ・指1本が入りそうなほど大きな隙間 |
| 出っ歯 | ・上の前歯が下の前歯より2〜4mm程前に出ている・意識すれば唇は自然に閉じられる | ・意識しないと口が開きがち(口ゴボ)・横から見たときに唇が少し突出している | ・唇が全く閉じられない・顎先に梅干しのようなシワができる |
| 受け口 | ・下の前歯が少しだけ前に出ている | ・上下の前歯が逆に噛み合っている | ・明らかに下顎全体が前に出ている(しゃくれ) |
お口の中に“動かせない障害物”はありますか?
矯正治療は、全ての歯を自由に動かせるわけではありません。お口の中に複数本のインプラントがあると、治療計画に制限が出ることがあります。
インプラントは顎の骨にネジで完全に固定された「人工歯」です。これらは矯正治療で動かすことができません。
ただし、1〜2本程度であれば、その歯を固定源として利用したり、それを避けて周囲の歯だけを動かしたりと、パズルのように計画を立てることが可能です。動かせない歯があるからといって、全体の歯並び改善を諦める必要はありません。
マウスピース矯正が「できない」を「できる」に変える!治療の選択肢

精密診断の結果、やはりマウスピース矯正「だけ」では難しいと判断された場合でも、まだ諦める必要はありません。他の治療法と組み合わせることで、理想の歯並びを目指せる可能性が広がります。
選択肢① ワイヤー矯正との組み合わせる「ハイブリッド矯正」
「ハイブリッド矯正(コンビネーション治療)」とは、治療の初期段階など部分的にワイヤー矯正を行い、難しい歯の動きを終えた後にマウスピース矯正へ切り替える治療計画です。
まず、ワイヤー矯正の得意分野である、抜歯でできたスペースを閉じたり、歯の根を大きく平行に動かしたりといった役割を担ってもらいます。これにより、見た目が気になるワイヤー装置を装着する期間を数ヶ月から1年程度に抑えつつ、治療全体の精度と効率を高めることができるのです。「ずっとワイヤーを付けるのは抵抗があるけれど、仕上がりには妥協したくない」という方に適した、まさに”いいとこ取り”の治療法と言えるでしょう。
選択肢② 治療の精度を高める「歯科矯正用アンカースクリュー」
これは、小さなチタン製のネジを歯ぐきの骨に一時的に埋め込み、それを船の「錨(いかり)」のように固定源として歯を動かす方法です。
錨があることで、動かしたくない奥歯などが意図せず引っ張られるのを防ぎ、治療したい歯だけを効率的に、そしてピンポイントで移動させられるようになります。この技術の応用で難しかった方向への歯の移動も可能となり、マウスピース矯正で対応できる症例の範囲が格段に広がりました。結果として、抜歯をせずに治療できる可能性が高まるという利点もあります。
なお、アンカースクリューは体に馴染みやすいチタン製で、埋め込む際の処置も短時間で終わることが一般的です。
これらの治療法は、いずれも高度な診断能力と技術が求められます。そのため、対応できる歯科医院は限られてくるのが実情です。
まとめ
マウスピース矯正は万能ではなく、骨格的な問題や重度の歯並びの乱れなど、苦手な歯の動きがあるのは事実です。しかし、「できない」と診断されても、すぐに諦める必要はありません。
ワイヤー矯正を短期間組み合わせる「ハイブリッド矯正」や、アンカースクリューを用いることで、治療の可能性は大きく広がります。大切なのは、自己判断で「無理だ」と決めつけず、精密検査に基づいて治療計画を提案してくれる歯科医師に相談することです。
自分の歯並びがマウスピース矯正に適しているかを知りたい方は、当院の無料診断を試してみてください。
